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プランツスケープ は、成長戦略の柱として環境に配慮した多面的な取り組みを社の重要課題と位置付けています。
植物を扱う専門会社の知識を活かしつつ、環境負荷軽減を目指す社会のニーズに即した取り組みを推進していきます。

GREEN PATH 高架下緑化プロジェクト

GREEN PATH 高架下緑化プロジェクト

始まりは2020年春、流山おおたかの森エリアの開発をしている事業者様からの高架下再開発のプランニング依頼でした。

流山おおたかの森は、都心と結ぶ鉄道が2005年に開通して以来開発が進み、近年では人口増加率の高さがメディアでも注目される短期間の間に少子高齢化を食い止めた子育ての街として知られています。
その人気の秘密は都心からのアクセスの良さだけでなく、ユニークな子育て支援策、緑地を生み出しやすい大街区を都市計画の柱に据えて新たな緑を生み出す取り組みで良質な住宅街を形成してきたブランド戦略にあります。
「都心から一番近い森のまち」を掲げるこうした行政の取り組みは、住民の82% が「将来も住み続けたい」と回答するまでになり、持続可能な街づくりのモデルケースとなっています。
しかし、下図が示す様に宅地開発と商業開発により多くの森林が姿を消しています。

赤丸:プロジェクトロケーション

1979年の様子
1979年

2020年の様子
2020年

街の中心を走る、11m の高さのある高架橋下の再開発を考えるにあたり、英国の「The Eden Project」に着想を得ました。
「The Eden Project」とは、イングランドの南西部の採石場跡地の再生事業の一環として作られた"環境保全"をテーマとした複合施設で、世界最大級の植物園「バイオーム」が併設されています。

植物が元気に育つ姿を通して、きれいな水、豊かな土壌、生物多様性、安定した気候という自然が与えてくれる循環システムの大切さを学べるラーニングセンターとして国際的な人気を集めています。
「The Eden Project」が成し得たように、開発によって緑が失われた無機質な高架下に植物の力で自然の恵みを感じられる空間を創出するという指針が決まりました。かつて森だった土地に緑を呼び戻し、おおたかの森の昔の姿を知る住民と新規の住民とが共にその価値を実感し、環境意識を共有する事が"森のまち"を謳う流山のアイデンティティとブランド強化にもつながると考えました。

プロジェクトの名称は予定地の細長い形状から緑溢れる小道をイメージに「GREEN PATH」と決まりました。
"PATH" はイギリスの田園地帯に整備された自然を楽しむ公共の散歩道"Footpath"の理念に由来しています。
イギリスの法律では"Public Footpath(公共人道)" という道を通って私有地や牧場などに入って歩けるように"Rights of Way(通行権)" が認められています。
牧場を囲む家畜を逃さない為の木柵のゲートを通り、田園地帯の住民は日常的にウォーキングを楽しみ、都会人は週末には郊外に出かけて自然の中へ分けいってハイキングを楽しむ文化が醸成されました。

1990年代
1990年と現在の比較
現在

また「GREEN PATH」には自然の中を歩くことを楽しむ"Footpath"の理念と、緑溢れる空間へのパスポート"Pass", 緑のエレメントをビジターに渡す"Pass"の意味も込められています。
商業店舗を並べる従来の高架下開発にはない、訪れる人が緑に包まれながら小道を歩く心地よさを感じる自然との繋がりを深められる緑の拠点を形成し、住民に自然環境の向上の大切さを意識してもらい、「GREEN PATH」で受け取った緑のエレメントを各自が持ち帰り、家族や知人にひろめることで点が線となり、やがては面となり街全体に緑の価値を波及させていくハブステーションの機能を高架下の空間に担わせる開発計画が「GREEN PATH」プロジェクトです。

Footpathの表示版
Footpathの表示版

高架下空間のビッグチェンジ

駐輪場として使用されていた当プロジェクト予定地に限らず、高架下の空間はコンクリートの無機質な冷たさにくわえて、どうしてもネガティブなイメージがつきまとってしまいます。
それは空間が①制限のある単機能的な利用に限定されている ②暗い、寂しいといった心理的忌避 ③街の分断線という捉われ方をしていることに起因していると考えられます。
ネガティブなイメージを払拭するにあたり「GREEN PATH」プロジェクトでは空間の①多機能化 ②心安らぎ楽しいと思える空間に作り変えて心理的忌避の解消 ③街をつなぐ交流の場とすることを念頭に施設のコンセプトやコンテンツを考えていきました。

①多機能化:ガラス張りの温室の中のグリーンショップ/カルチャースクール開設/キッチンカーカフェを常設
②心理的忌避の解消:緑化し、空間を無機質から有機質化/"森の街" のコンセプトと親和性の高い設計デザインで街に調和
③街をつなぐ場: イベントスペースを設けて空間の活性化/ベンチを設置し通り過ぎる場から滞在する場へ/お散歩道として誘導

上記の活用プランに加えて、再生材の使用、植栽剪定ゴミで堆肥づくりなど持続可能な開発目標の6 つの指標も包括的に目指すことを盛り込みました。

持続可能な開発目標の6つの指標

ようやく高架下再開発プロジェクトのコンセプトとコンテンツが固まり、完成時のビジュアルイメージも出来上がり、施設のオープンも約1 年後の2022 年6 月と決まったことで、いよいよ基本設計、実施設計制作のフェーズに入っていきます。

ゾーニングプラン

GREEN PATH 完成イメージ

緑化工事スタート

高架下の空間を緑溢れる空間に作り変えるにあたり、一番の難問は日照の確保です。
季節ごとの日光の差し込みを計測し、足りない場所には照明を入れて補い、また植物は耐陰性のあるものを選定しました。
また、高架橋を支える地下の基礎に樹木の根が影響を与えないように防根シートを使用しました。
地植えした植物にも、雨による給水が望めない為、自動潅水給水システムを導入しました。

緑化工事の様子

緑化工事の様子

照度分布図
照度分布図

選定された植物達

いよいよオープンへ

緑化工事と並行して、店舗として使用されるガラス張りの温室建設も進められ、オープンが迫ってくるとカフェとなるキッチントレーラーも到着し、いよいよ施設の全容が見えてきました。
6 月30 日のオープンに向けて、スタッフ募集、販売植物の仕入れ、雑貨類の陳列、イベントスペースのマルシェと急ピッチで準備が進められ、無事にオープンの日を迎えることが出来ました。

キッチントレーラー

オープンまでの様子1

オープンまでの様子2

GREEN PATH OPEN

Forest

店内の様子2

店内の様子3

おおたかの森に初めて出来た植物の専門店「Forest」」は、オープンを心待ちにされていた多くのお客様にご来店頂きました。店内は17 世紀以降にヨーロッパで活躍した新大陸やアジアで新種の植物を採取収集した"プラントハンター" 達が持ち帰ったエキゾチックな植物で飾られた、王侯貴族達のオランジェリーや居間をデザインコンセプトにし、植物ショップにはないゴージャズな雰囲気の空間となっています。

店内の様子2

店内の様子3

高架下の無機質だった空間に緑が蘇った事で、オープン後すぐに野鳥が巣を作りだしたのは、人間だけでなく流山の自然界の生き物達もプロジェクトの行方に注目していたのだと思える出来事でした。
おおたかの森はその名の通り、かつて市鳥でもあるオオタカが生息する土地でしたが、開発により一部保全された小さな森でのみ若干数の生息が確認されているだけです。
「Green Path」が発信する緑のエレメントが、街中に広がり、自然に親しみ、環境意識が高まり失われた森の再生がいつの日か成し遂げられた時、オオタカが街に戻ってくる未来につながる緑化プロジェクトであることを願います。

「GREEN PATH」の目指す空間

高架下再開発プロジェクトの施設の設計デザインにおけるコンセプトは前述の通りですが、プランツスケープが施設オープン後の運営を担っていくうえでの重要課題は、ソフトとしても③の"街をつなぐ場" である事にあると捉えています。
子育ての街として近年注目をあびているおおたかの森ですが、地域の博物館に行けば旧石器時代、古墳時代、中世武士の台頭、江戸の民衆文化、新撰組隊長近藤勇の陣屋跡跡もあり、豊かな歴史があるように昔からの住民の方も当然いらっしゃいます。とかく子育て世代を意識したイベントや店舗が多くなる土地柄で、「GREEN PATH」では全ての世代の住民の方々に滞在して頂き交流の場となる空間作りを指標としています。
まず、店舗内でおおたかの森では初のカルチャースクールとなる「Culture Salon Forest」を開講させました。17~19 世紀, ヨーロッパの貴族が邸宅に文化人や著名人を招いて知的交流を楽しんだサロン文化の様に、お稽古事だけでなく新しい社交の輪が広がる様に「Culture Salon Forest」と名付けられたスクールでは、ヨーロッパのクラシカルな雰囲気漂うグラスリッツェン、ステンドグラス、カリグラフィー、テディベアに加え、日本の伝統工芸の金継ぎといったじっくり取り組める講座を揃えています。
他のセンターにはない、マイナスイオンたっぷりの緑に包まれた空間には、ゆったりとした贅沢な時間が流れます。また店舗脇のイベントスペースではクリスマスマーケットやハロウィンイベントを開催し、賑わいをみせています。

ハロウィンイベント
ハロウィンイベント

クリスマスマーケット
クリスマスマーケット

サロンのフラワーアレンジメント講座の様子
サロンのフラワーアレンジメント講座の様子

2023 年には、新住民と旧住民の両方が一堂に会し、全ての世代に喜んで頂け、文化にも気軽に触れて頂けるイベントとして、カルチャーサロンの特別講座を8 月に「KWAIDAN NIGHT - 耳なし芳一」、11 月に「赤穂義士伝」の演目にて 講談師の神田伊織さんをお招きして開催しました。
小学生のお子様から80 代の方まで偏りなく各世代の方にご参加下さり、怪談の会では、日本人の怖さを楽しんで涼を感じるという江戸っ子の粋な文化を当時お寺の境内や辻で行なっていた様に野外の舞台で体験して頂きました。

イベントの様子

高架下は土地に限りのある都市においては駅近のホットスポットである事から、近年はこれまでの飲食店やショップではなく、キャンプ練習場、ヨガスタジオ、ボルダリング施設など新しい活用方法の取り組みが試みられています。
なかでも「GREEN PATH」プロジェクトは、高架下の再開発との相性が従来悪いとされてきた植物をメインに据えた画期的な取り組みであり、採光と給水の工夫によって高架下の環境であっても十分な緑量の確保と生育がたもてる事が実証されました。郊外に行かずとも、緑に包まれながら歩く心地良さを日常的に体感することは、自然環境保全の大切さへの気付きに。
脱炭素社会に向けて、人間の排出する炭素量の削減には排出そのものを減らす工夫と同時に、吸収してくれる豊かな緑の価値と重要性が増すなか、都市部の高架下のデッドスペースに緑の小道が出現し、鉄道の様に延伸し、別の路線とつながっていくような再開発のビジョンが、「GREEN PATH」から発信できればこれに勝る喜びはありません。